不動産は大きな資産であるだけに、売却に関わる機会はそう多くありません。それだけに、住み替えや相続税対策などの必要に迫られたとき、その方法や手順、どれだけの期間がかかるのかなどが気になるものです。そこでこの記事では、売却を検討している人のために、一般的な2種類の方法である仲介と買取、そして不動産売却の流れについて解説します。
仲介と買取、2種類の売却方法の違いと、それぞれのメリット・デメリットとは
不動産の売却方法は、不動産会社に依頼して、売却先を探してもらう「仲介」と、不動産会社に直接、物件を買い取ってもらう「買取」の2種類に代表されます。
2つの方法には、それぞれメリットもあればデメリットもあるため、一概にどちらの方が良いということは言えません。売却を考えている人の事情に合わせた方法を選ぶことが大切なのです。
仲介のメリットは、希望する売却価格や引き渡し時期などの条件にできるだけ沿った形で、売却が行えるところだと言えます。様々な広告活動や不動産会社が持つ顧客から、マッチする購入希望者のリストアップ、独自のネットワークを利用しての紹介と、不動産会社が持つ購入希望者探しの手段は豊富です。その中から、最も高値で買ってくれる人、都合の良い時期に引き渡しのできる人を選び出すことができるため、満足度の高い売却を行うことが可能です。また、内見や価格交渉といった面倒で複雑な手続きも不動産会社が引き受けてくれます。売却後も、代金がすべて振り込まれて物件の引き渡しが完了するまで、きちんとサポートしてもらえるため安心です。
デメリットとなるのは、主に時間の部分になります。仲介では、3ヶ月前後を目安とした契約を結ぶのが普通です。これは、購入希望者を探し出し、交渉を終えてローンの手配などを済ませ、引き渡しが住むまでにどうしても必要になる期間なのです。そして、必ずこの期間内に話がまとまるという保証はありません。購入希望者が見つからなかったり、条件面で折り合いがつかなかったときは、あらためて契約を更新するか、別の不動産会社を探すかということになります。つまり、仲介での売却はこうしたリスクを念頭に置いたうえで、取り引きに十分な時間をかけられる人に向いた方法です。
これに対して買取のメリットは、何と言っても取引完了までのスピードにあります。不動産会社が直接物件を購入するため、長期間をかけて購入希望者を探すという手間暇がかからないからです。また住宅ローンを利用しないので、購入希望者がローンの審査に落ちたため、契約が白紙に戻ってしまった、などというトラブルも起こりません。
買取のデメリットは、売却価格が低くなりがちだということです。不動産会社は購入した物件に対し、土地ならば、隣の土地と合わせて一つの広い土地としたり、住宅ならリフォームを行ったりなど価値をプラスしたうえで売却し、元の価格との差額を利益とします。利益を大きくするためにはコストを抑える必要があるため、買取の提示額はどうしても低めになるのです。
しかし急に土地や家を相続することになった人にとって、相続税はしばしば、1日でも早く解決したい問題となります。特に2006年以降は物納の条件が厳格化され、延納にも金利がかかることを考えれば、ゆったりと構えて購入希望者を探すというわけにはいきません。このように買取は、価格よりも処分のスピードを重視する人に向いた方法となります。
査定の依頼から物件の引き渡しまで、不動産売却の詳細な流れについて
仲介での不動産売却の流れは、物件の査定、媒介契約、売却のための活動から売買契約の締結、代金の収受と物件の引き渡し、と言う順序で進みます。買取の場合は査定後、特に依存が無ければすぐ売買契約に進むことになりますが、いずれにしても最初は、不動産会社に査定を依頼するところから始まるのです。
査定には、一定のデータをもとに簡単な査定を行う「机上査定」と、不動産会社の社員が現地へ直接調査に赴く「訪問査定」の2種類があります。机上査定は、不動産会社のウェブサイトや電話相談のサービスにより、物件の面積や立地、建築物がある場合は築年数や延床面積などから査定を行うものです。ただしこれでわかるのは、過去の類似した物件の売買記録を参照した価格、つまり似た条件の物件ならばこれくらいの価格で売買されています、という大まかな相場だけになります。そこで、机上査定で大体の相場を掴んだ後で、日取りを決めて訪問査定を受け、より現実的な価格を調べてもらうのです。
訪問査定では、電車の駅やスーパーマーケット、病院などの生活するうえで便利な施設が近くにあるかどうかなどの利便性、建築物の構造躯体、日当たり具合、窓からの景観も重要なチェックポイントになります。
一戸建て住宅では特に間取りが重視されますが、これは次にその住宅に住む人の暮らしやすさに関わるためです。動きやすい生活動線が確保され、家具を配置しやすい設計になっていれば、査定額が上がる可能性があります。そしてバスルームやトイレなどの水回り設備、雨漏りはないか、害虫被害に遭っていないかなどの保全状態も大切です。
マンションなら高層階ほど査定額は高くなる傾向にあり、角部屋か、ベランダは南向きかといった条件も見られます。管理と修繕の具合はもちろん、東日本大震災以降は、地震対策の有無も重要視されるようになりました。
このように、訪問査定での査定額は慎重に算出されますが、それでも不動産会社によって多少の違いがあります。査定を依頼したからといって売却契約を結ぶ必要はないので、複数の不動産会社に査定を依頼し、査定額や姿勢を比べて見ることが大切です。
よく検討して信頼できる不動産会社を決めたなら、買取を希望する人は不動産会社と直接話し合い、細かな条件を詰めて売買契約を結び、売却を行うことになります。一方、仲介を選んだ場合はここからが本番です。まずは媒介契約の締結ですが、媒介契約には「一般媒介契約」「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」の3種類があり、それぞれに特徴が異なるため、それを理解したうえで契約しなくてはいけません。
「一般媒介契約」は複数の会社に依頼する契約、「専任媒介契約」「専属専任媒介契約」は1社のみに媒介を依頼する契約です。一見、一般媒介契約が有利に見えますが、この契約は不動産会社に取ってうまみが少なく、法令上の縛りがほとんどないこともあってあまり熱心な活動が期待できません。専任媒介契約と専属専任媒介契約はこの点、活動内容についての規定があり、さらに専任媒介契約は自分で物件の買主を見つけて取引できる自由があります。このため個人の仲介では、専任媒介契約を結ぶケースがほとんどです。
媒介契約が締結されると、不動産会社は売却のための広告活動に入ります。売却する物件の近隣にチラシを配布する、新聞に折り込み広告を出すなどは昔からおなじみの手法ですが、インターネットが発達した現代ではウェブでのPRがメインです。自社のサイトに物件を掲載するのは当然として、ここで重要になるシステムにReal Estate Information Network System、略称「レインズ」があります。
レインズは、不動産流通機構が運営する独自のネットワークで、会員登録した不動産会社が、相互に不動産に関わる情報をやり取りできるというものです。自社の持つ顧客に条件の合う購入希望者がいないときには、このレインズを利用することで、より広範囲から探すことが可能になります。
購入希望者が見つかれば、次は内覧です。直接物件を見てもらい、購入希望者が物件を気に入れば、次は諸条件の交渉に移るのですが、このとき事前に決めておいた価格が鍵となります。価格が相場に対して高すぎても低すぎても、話がまとまらない可能性があるため、担当者と念入りに打ち合わせておきましょう。そしてもう一つ大切なのが、物件の情報を正確に提供することです。不動産会社には「重要事項説明」という制度があります。物件に不具合があっても隠さず正直に報告し、スムーズに交渉が進むよう協力しなければなりません。
首尾よく合意に至れば、売買契約の締結です。一般的にはこの時点で手付金を受け取ります。手付金の額は、通常、物件価格の10~20%程度です。契約にあたっては、条件に間違いがないよう、内容をよく確認してください。
最後は引き渡し手続きです。ほとんどの場合、売買代金の受領と登記申請が同時に行われることになります。また、決済には司法書士の立ち合いが必須です。このため不動産会社の担当者、物件の買主のほかに、銀行の担当者と司法書士が同席します。物件の引き渡しについては、買主と一緒に現地に赴き、細かな部分まであらためて説明し、確認を行いましょう。その後は税務申告などを忘れないよう、注意してください。